グアム・サイパン太平洋の伝説


FRAGRANT LADY

FRAGRANT LADY② 薫る淑女

 その時、彼は身震いしました。

 「ただし、万一彼女がスペイン人に抵抗して降伏をしなかったチャモロ人の怒りの魂であったならば…その時、僕は許しを乞うよ。」またもや彼は身震いと、足の震えを感じました。

 「どんな奴でも怒りの魂に近寄った者は…二度と戻らないか、戻ってきてもすごく変貌しちまっているか、だったな。」

 このlanchoの若い農夫は、小道の側に小さな小屋を建てました。彼は毎晩、月光の夜にその小屋の中に寝泊りをして、休みながら小道を観察しました。

 ある晩の事、彼の瞼がとても重くなり始め、開けている事が出来なくなった時に、突然レモンの香りが広がり、彼は目覚めました。彼は居直り、慌てて外を見渡しました。

 一つの影が視界から抜け出して、窓を一瞬暗くしましたが、すぐに闇に溶け込んでしまいました。
 彼は完全に目を覚ましました。途端に飛び起きて、表に飛び出しました。しかし、彼女の影も形もありません。彼は海に向かって向きを変え、小道に沿って追いかけました。
水の一歩手前に彼女がいたのです。さて、それが確かに彼女なのか、それとも月光が波の上を漂っているのか定かではありません。その時、雲が月を覆い隠しました。
一瞬の発光が走りました、そこには女性の姿がしっかりと映りました。
慌てて彼は向きを変え、元来た小屋に向かって急ぎ始めました。
「もしあの影が女性のものならば、海から戻る時、行きに通った時と同じ道を通るはずだ。」彼は小屋に戻り、入り口の表に腰掛けました。
「ここで待つぞ、そして彼女がここを通る時、その時が勝負だ。」
彼は長い時間待ち続けました。そろそろ月が丘の向こうへ消え始める頃、芳しいレモンの香りが空気に乗ってやってきたのです。その時、彼は確かに彼女を見ました。彼女は白くて薄いサロンを身にまとい、彼女の長く濡れた髪からは新鮮なレモンの香りが、身体からはたった今海に降り注いだ雨の様な爽やかな香りが漂っていました。

最初に彼はただ見ているだけでしたが、次の瞬間一歩を踏み出して彼女の前に立つと、それから動けなくなりました。彼は足を上げようと努力しましたが、何と彼のサンダルは釘で地面に打ち付けられているではありませんか。

途端に、彼女は小道から消えていなくなりました。彼はサンダルから足をすりぬくと、小道を飛び上がり彼女の後を追いかけました。断固として彼女の顔を見ようと、彼は更に速度を上げて走りました。けれど彼が早く走る程、彼女は更に早く先を行くのでした。彼の心臓が飛び跳ね始め、肺が焼ける様な感覚になりました。

小道がとても険しくなっていき、遂に彼女が速度を落としたのです。最後の力を振り絞り彼女に追いついた彼が、彼女のガウンの裾にたった1インチの所まで近付いて指を伸ばし彼女に触れようとしたその時、月が最後の光を放って、夜明けを迎えました。月が闇に帰り、太陽が燃え始めた時、フレグラントレディは完全に消えてしまったのです。