グアム・サイパン太平洋の伝説


グアムを救った女性

グアムを救った女性 HOW THE WOMEN SAVED GUAM ①

 もうどこを探しても食べるものがなかった。子供達は空腹を抱え泣き続けていた。

 空っぽの胃袋が動くたびに、それはひどく痛み、しばらく繰り返し、もっと痛みだす。疲れ果てた子供達は仕方なくココナッツの皮と干からびた魚の骨を噛み続けていた。

 タロイモは随分と前から成長が止まり、バナナの木も赤い花を咲かせる事をとうに諦めて、いつからか新しい実を付ける事すら忘れてしまっていた。

 雲は迷子の様にただ空に漂い、一滴の水をも大地に落とす事さえしなくなっていた。
 時折、湿った海風が狂ったように吹き抜け、いたずらに椰子の葉をなびかせる。枯れた木々の枝をこすり合わせて奇妙なハーモニーを生み出し、まるで埃の渦が愉快で仕方ないかのようにその音と併せて舞いながら、それらを繰り返す。
それでも空は一滴の水をも、この乾ききった大地にもたらす事すら無視し続けた。

 「精霊達が怒っている。」maga’hagaの長老女が口を開いた。
 「人間は自分勝手に欲しいものを全て手に入れようとする。この母なる大地から、海から、取れる物を取れるだけ、そして何も恩返しをしようとしない…何もかも!」
 「誰もかれもこの大地に感謝をすることを忘れて勝手に荒らし放題できてしまった。だから精霊たちは警告しているのです、今起きている事すべてはみんな自分勝手な人間達への罰なのです。」

 女の言っている事は正しかった。
 人々はいつしか、この母なる大地に感謝の念を抱く事すら忘れてしまっていたのだった。今となっては、土地は痩せ細り何も育たない。溢れるほどの水は、とうに使い果たされて、井戸は一滴も残らずに枯れ果ててしまった。

 そして新たな罰の始まりは、その夜の静寂を切り裂くかの様、あまりにも唐突に人々に襲いかかったのです。
 ゴロゴロとした呻き声の様な地響きが地下深くより響き渡り、とてつもない固い衝撃に地面が轟いた。

 「何だ!いったい何が起こっているんだ!」AGANA湾周辺にいた人々は、各々叫びながら逃げだした。
 バリバリ!と破壊されるような恐ろしい音の後に、ひどくおぞましいくちゃくちゃという音が響き、それはどんどんと近付いてきた。
 何かがこの地面の真下から、地球を食べている!
 高い崖から、その下に広がる荒海に、巨大な岩が崩れ落ちていくのが見えていた。

 「ああ!!私達をお許し下さい!!古代の神々よ、どうかお許しを!」
 人々は恐れ慄き祈り続けた。
 「精霊達の怒りは簡単には治まらない、私達がこれから、全て自分勝手な行動を戒めて改善しない限りは…我々が許される事など永遠にないのです。」最年長の女性がそう呟いた。
 今となっては、祖先と精霊達だけが、このひどい干ばつと人々の飢えを、そして遂には島を食べ始めた怪物を止める事が出来る…それには祖先の怒りを鎮めなければならない事を彼らは分かっていた。

 一人の男が銛を握りしめて叫んだ。
 「走れ!あいつの家を目指して走るんだ!助かる為に皆、急いで走れ!」島民は泣き叫んだ。 同時に“ウウウウウウウウーーー”と大きな音が響き渡った。誰かがホラ貝を吹いている音だった。
 「皆!あの男の家まで全力走れ!既に酋長がホラ貝を吹いている、あの家に集まるんだ!」
 男は背の高い急勾配な屋根の下で押し潰されそうになりながら叫んだ。
 何人かは柱の側に立っていた。小さな男の子は大きな兄弟達の背中に隠れて立ちすくみ、その様子を凝視している。
 全て人々が口々に叫んでいた「我々の島を食べ尽くそうとしている奴を戦うのだ!」
が、どんな言葉も誰一人として聞いて居らず、全ての言葉は石の様に固まり飲み込まれていっただけであった。
 外では若い娘と老婆達が立ちすくみ、頭を震わせて待っていた。
 男達が何をすれば良いのか言い争う様子を聞いていた。
 そして、地面の奥深い底の方から、もう一度地球が震えだした。恐ろしい歯ぎしりが彼らの足元の石灰岩の真下より響き渡ってくる。最後の最後まで繰り返し噛み砕き、噛み続ける音が響き、そしてようやく静寂が訪れた。