グアム・サイパン太平洋の伝説


恋人たちの物語

恋人たちの物語 THE TALE OF TWO LOVERS ③

「ジョセフ、ジョセフ!どこにいるんだ?」ジョセフの父親の声がしました。2人は急いで別れると、別々に去っていきました。

 人々が気付き始める前に、2人は数回会っていました。エレナはため息の回数が増え、ジョセフの友人は彼が人混みの中でもぼんやりとしている姿を見かける様になりました。

 教会の司祭はこの2人の若者が、以前にも増して教会へ足を運ぶようになった事に気が付いていました。

 エレナの兄達も、彼女がほぼ毎日村へ行っている事に気が付いていました。周囲の人々が囁き始めました。そして遂にその噂がエレナの父親の耳に届いたのです。
 父は激昂してエレナを怒鳴りつけました。
 「エレナ、一体何て事をしているのだ! 家族に対しての裏切り行為も甚だしい。その悪魔の男と家族全員、誰一人として信用ならないぞ!」
 「もし、お前がその男と一緒にいる所を一度でも見つけたら、その時は…。」父は大声で怒鳴り、非常に不快な気分でその場を去りました。エレナは家の外に飛び出て、いつも隠れ家にしている森へ駆け込みました。

 また兄達は、さらにたくさんの人々の噂を全て鵜呑みにして、ジョセフの事を一層嫌いになっていきました。
 「よくも俺の妹に話しかけてくれたものだ!」一人の兄が言いました。
 「あいつ、自分を誰だと思っているんだ?俺達の家族に恥をかかせる気か?」
 「あいつなんかが俺の妹にふさわしい訳がない!」一番上の兄が怒鳴りました。


 同じ頃、森の中の花の咲いている樹の下で、エレナはすすり泣いていました。
 「彼は何も悪い事はしてないのに!」彼女は泣きました。
 「彼の事を放っておいて、お願いだから。どうか彼に構わないで!」エレナは樹の下に落ちていた白い花をじっと握り締めていました。

 その花を心臓にギュッと押しあてながら、彼女とジョセフのお互いの家族間にあるこれまでの憎しみと怒りが、全てきれいに消え去る事を願いました。

 エレナとジョセフはそれから、以前よりもっと気を付ける様にしました。夜更けの一番暗い時刻になると、ジョセフはエレナの家の側の森に出かけました。そこにある大きく枝を広げた木の下で、エレナを待っていました。