グアム・サイパン太平洋の伝説


恋人たちの物語

恋人たちの物語 THE TALE OF TWO LOVERS ⑤

 エレナとその兄達が森を去った直後、ジョセフが到着しました。辺り一面に血が飛び散っていました。木々の枝はあちこち折れていて、葉っぱがたくさん散っています。
 そして何よりも彼の眼に鋭く飛び込んできたのは、たくさんの血が染み付いたレースのマンティラでした。彼はそれをそっと拾い上げ、泣き始めました。

 「何という恐ろしい事が起きてしまったのだ! ここでエレナが僕を待っている間、何者かに襲われてしまった!ああ、何て事だ、全ては僕の責任だ!僕が彼女を守るべきだったのに!!」
 ジョセフは体全身ですすり泣いていました。
 あの美しいエレナがいなければ、彼の人生は何の意味をも持ちません。
 彼はそこにあった木から、エレナがいつも手にしていた大好きな白い花弁の花を摘みました。
 ジョセフはその花を胸に抱くと、ゆっくりと彼の腰のベルトからナイフを引き抜きました。そして、躊躇することなくそのまま自身の胸にナイフを突き立てたのです。

 同じ頃、エレナは兄達の目を盗んで抜け出すと、再び森へ戻ってきました。そこで彼女は、ジョセフが血の海の中に横たわっているのを発見したのです。
 エレナは兄達がやったのだと思い、横たわるジョセフを腕の中に抱きかかえ泣きました。
 「兄さん達、なんてひどい事を!」ジョセフはかすかに意識があり、最後にエレナを見とめると、そのまま息を引き取りました。
 エレナはどうすれば良いのかわかりませんでした。彼女にとってジョセフのいない人生など考えられません。そして、2度と兄達の顔を見たくはありませんでした。エレナはジョセフの胸に突き刺さったナイフを引き抜きました。そして彼の胸に横たわる白い花にそっと触れ、最後にもう一度自分の最愛の人をじっと見つめました。
 そして次の瞬間、彼女は自分の心臓に深く達するようにナイフを突き立てたのです。エレナは自分の唇に触れて、ジョセフの唇を触りました。息を引き取る直前、エレナは最後の力を振り絞り、彼の胸とそこに横たわる白い花の上に自分の手を重ねました。

 次の日の朝、家族がこの2人を発見した時、そこで信じられない奇跡を目にしました。

 そこに咲いていた白い花が、一枚の花弁だけを残して、全て見事な赤色に変わっていました。そして、最後に残った一枚の白い花弁は、涙が飛び散った様な模様に染まっていたのです。その涙の模様の色は真っ赤な血の色でした。

 彼らは森の中の木々に咲く花弁を全て見て回りましたが、一枚残らず花の色が変わってしまっていました。

 遂に彼ら互いの家族は、自分達の心の底に互いを嫌い合う悪魔の感情が潜んでいた事に気が付きました。今こそ、彼らの心を変えなければなりません。

 そうです、奇跡は起こったのです。真っ白な花達が、全て燃える様な赤い色に変わりました。森の中のその木々は「エレナとジョセフの永遠の愛」という名で、その後人々に呼ばれるようになりました。

 今でもフレームツリーは一枚の白い花弁だけが血の涙の模様を残し、その他は燃える様な真っ赤な色を称えて、美しく静かに咲き続けています。